日常の中で見つけたぬくもり
イスタンブールでの暮らしは、特別なことがなくても、毎日が少しずつ色づいていました。
朝、アザーンの声で目が覚めると、窓の外にはすでにパン屋さんの煙がゆらゆらと上がっている。近所の人が「ギュナイドゥン!(おはよう)」と笑顔で声をかけてくれると、それだけで一日が明るく始まる気がしました。
市場へ行くと、トマトの赤やオリーブのつや、スパイスの香りがあふれていて、会話のテンポもどこか陽気。買い物というより、ちょっとした社交の場のようでした。
紅茶を片手に過ごす時間も、トルコで覚えた大切な習慣のひとつです。
どんなときも、まず「チャイでも飲もう」と誘われ、温かいグラスを手に語らううちに、気持ちがほぐれていく。そんなやり取りを通して、人との距離の近さを感じました。
イスタンブールの日常は、音と色と人の温かさで満ちています。
長く暮らすうちに、この街が自分の一部になっていったように思います。
日々の小さな景色や声、香りのひとつひとつが、今でも心に残っています。